レポート

「ミュージアム被災状況と復旧プロセスに関する調査報告書」

背景

日本の公共文化施設は、1980 年代以降の地方都市を中心とした施設整備の過程で、それまでの鑑賞型の施設から地域との関係を重視した施設へと、施設運営の在り方が問われてきている。他方、将来的な少子高齢化などの縮退状況を想定し、従来の鑑賞及び創造活動の支援を超えた、より多様な地域への関わりが必要とされつつある。特に地域の社会包摂の観点からは、公共文化施設や文化芸術活動の社会的役割が期待されている。例えば、ミュージアムが事業協力の枠を超えて、施設機能の連携や地域活動の支援を通し、社会的な課題に対応していこうとするなどの動きがそのひとつである。
SMMAは、地域の多様な博物館施設の活動を横断的にネットワーク化することで、地域の知的資源のより効果的な活用を図ることを目的に組織された。2009 年には共同広報として行う催事の情報宣伝協力やポータルサイト構築、共同企画事業などを開始し、現在では各施設のそれぞれの特色を生かした共同企画の事業や、各館個別の紹介マップの作成、回遊ルートの開発など、市民によりわかりやすい形でのネットワークの可視化へと展開してきている。将来的には、ミュージアム施設を中心とした仙台市内の様々な文化資源の有効活用と新たなコンテンツ開発など、新たなネットワークの在り方を視野に入れた活動を目指している。
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は、東北地方の沿岸部を中心に、多くのミュージアムにも広域かつ甚大な被害をもたらした。加えて、施設復旧までの長期的な閉館などにより、地域の文化的なアクティビティにも大きな影響を及ぼしている。 このような状況を受け、SMMAでは、災害発生時及び復旧過程を詳細に記録し、そのプロセスにおける様々なネットワークの関わりを捉え、今後の災害への知見と地域におけるミュージアムの存在意義を捉えなおす必要があると考え、仙台高等専門学校建築学科 坂口研究室に本調査を委託することとした。

目的

本調査は、東日本大震災における発災前後の施設スタッフの行動を中心としたミュージアムの状況を捉え、今後の災害対応への知見及び地域におけるミュージアムの在り方を問うことを目的とする。具体的には東日本大震災におけるSMMA参加館の施設(備品、資料含む)被害及びハード・ソフト両面の復旧のプロセスを把握するとともに、復旧プロセスにおける様々なネットワークの関わり、発災前後及び施設再開前後の施設スタッフの意識の変化、再開前後の利用状況の変化などを捉える。更に施設の再開意義及び復旧の過程に想定された事象等を捉えることで、具体的な災害対応の知見を捉えるものとする。
また、甚大な被害における復旧プロセスとその課題を明らかにするために、宮城県石巻市、気仙沼市、福島県内の公共文化施設の発災から再開及び現在までのプロセスを把握し、仙台市内の事例と共に整理し、地域におけるミュージアムの役割と意義を捉えるものとする。

調査概要

調査は下記の 3 つの段階で実施した。

調査 1:東日本大震災における公共文化施設の被害状況調査
東北地方の公共文化施設の被害と再開状況を整理する。特に岩手・宮城・福島の 3 県に関して、 公共ホールと美術館・博物館に分けて考察を行い本調査研究の事前調査とする。
調査期間 2012 年 4 月~2012 年 9 月

調査 2:仙台・宮城ミュージアムアライアンス(SMMA)参加館の資料概要調査
発災からの仙台市の動きと仙台市内のSMMA参加館の再開状況を整理した。
調査期間 2012 年 6 月~11 月

調査 3:調査 2 を踏まえ、SMMA参加館の発災から復旧までのプロセスと再開後の状況などを現地ヒアリング調査と関連文献により捉えるものとする。ヒアリングは、主に学芸員を中心とした施設スタッフに対して行った。基本的なヒアリング項目は巻末に示す。仙台市外の対象施設となった石巻文化センター、石ノ森萬画館、リアス・アーク美術館、福島美術館、福島県立美術館は、各施設の被災状況や特性に応じてヒアリング項目を一部変更した。
調査期間 2012 年 10 月~2013 年 3 月

※なお本研究では、美術館・博物館全体をミュージアムとし、必要に応じて美術館や博物館に加え、劇場・ホールを含め文化施設と定義する。また、公共文化施設は私立ミュージアムと区別し用いることとする。

調査組織

仙台・宮城ミュージアムアライアンス事務局
仙台高等専門学校建築学科 坂口研究室
担当 准教授 坂口大洋
専攻科生:西條美春 菅貴哉
本科生:白鳥大樹 芳賀祥子 松川その美

調査対象施設ヒアリング

仙台市博物館 2012/10/16
仙台文学館 2012/10/23
仙台市歴史民俗資料館  2012/10/24
東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館 2012/10/30
仙台市縄文の森広場 2012/10/31
地底の森ミュージアム仙台市富沢遺跡保存館 2012/11/07
せんだいメディアテーク 2012/11/14
宮城県美術館 2012/11/27
仙台市八木山動物公園 2012/12/10
仙台市天文台 2012/12/11
スリーエム仙台市科学館 2012/12/12
※東北大学総合学術博物館からは資料提供を受けた。

※仙台・宮城ミュージアムアライアンス参加館以外のヒアリング
石巻文化センター 2013/02/07
石ノ森萬画館 2013/02/07
リアス・アーク美術館 2013/02/11
福島美術館 2013/03/06
福島県立美術館 2013/03/26 

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