各館の出来事

東北大学総合学術博物館

1998(平成10)年4月 開館
(理学部自然史標本館としては平成7年10月)

宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3

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面 積 敷地面積:1,747 ㎡
収蔵面積:742 ㎡
展示面積:498 ㎡
構 造 鉄骨鉄筋コンクリート造
規 模 地上4階
年間来館者数 平成21年度 15,767人
平成22年度 15,578人
平成23年度 7,754人
平成24年度 11,764人

震災の被害について

建物の被害

なし

人的な被害

なし

文化資料

展示標本の転倒、破損
クジラ全身骨格標本の左ひれ支持のアクリル板基部割れ
クジラ全身骨格標本の組み立て姿勢の崩れ
2階収蔵室、2段積みの収納棚の上部落下、内部の標本は軽度の破損
3階収蔵室、固定していない収納棚 1台が倒れて斜めになり、棚の天板上に載せていた標本が落下、多くが破損
3階収蔵室、引き出しではなく、ラック式移動棚に収納していたコンテナ数箱が床に落下、標本が散乱

施設管理に関する調査まとめ

震災発生当日の様子

来館者: 4名(展示室)
職員数:職員 3名(1階管理室、整理室)
業者 1名(2階収蔵室)

震災発生当日の施設閉鎖までの経緯

  • 地震発生、揺れが大きくなってきて、職員 1名が展示室へ行き、来館者に対し建物の外に出るよう指示
     ( 2階にいた業者 1名は揺れが収まった後で建物外に避難)
  • 避難集合場所となっていた標本館駐車場に集合し、安否確認
  • 余震で合同棟が大きく揺れて見え、集合した避難者全員はキャンパス入り口のバス停付近に移動
  • 地学棟 6階にいた職員 1名が、地学専攻での安否確認をすませた後(専攻毎に安否確認)、標本館内部の簡単な状況確認にあたる
  • 数名の職員で手分けして各部屋のブレーカーを落とし、電化製品のコンセントを抜く処置
     (屋外に避難していた来館者 4名はおそらくタクシーを利用して市街へ向かったと思われる)
  • 館長の指示により、さしあたり用務のない職員は 16時過ぎより随時帰宅
  • 西教授の指示により、帰宅困難な学生や理学部を訪れていた受験生の緊急宿泊場所として、標本館 1階ロビーを使用

震災直後の様子 3月12日~3月末日までの期間

3月 12日 オウムガイ水槽のポンプの乾電池交換
3月 14日 標本館内の詳しい状況調査

復旧・復興の状況、研究や教育への影響

電気の復旧、標本館および博物館のサーバー、ネットワーク、ホームページ、メール等の復旧は、3月 22日におこなった。

標本の移転・仮収蔵施設の確保

a.旧風洞実験棟およびプレハブ収蔵室からの資料標本の移転

理学部キャンパス内の旧風洞実験棟収蔵庫(約 250㎡)が、地震により地盤崩壊の危険があるため使用不可となり、収蔵していた金属博物館資料、古生物学標本、考古学資料の約半分を、いったん自然史標本館展示室に緊急避難させた(4月)。 別途収納場所として理学部キャンパス内の保管スペース(約 50㎡)と片平キャンパスの旧男声合唱部練習場のスペース(約 150㎡)が確保できたため、 6月 7・8日にその緊急避難分を含めて多くを搬入した。その後旧風洞実験棟と古いプレハブ収蔵室(約 50㎡)が取り壊されることとなったため、10月 26日に、残されていたものすべてを追加で搬入した。 そのさい理学部キャンパス内に新設されたプレハブ収蔵室(約 50㎡)を新たに確保し、そこにはおもに金属博物館の文献資料と大型標本を搬入した。 旧風洞実験棟収蔵庫は建物外の地面に発生した亀裂が内部にも及び、床に亀裂が入った。


b.片平キャンパス旧男声合唱部練習場からの資料標本の移転

6月と10月に資料標本を移転した片平キャンパス旧男声合唱部練習場が取り壊されることとなったため、旧青葉山ゴルフ場クラブハウス内に収納スペース(約 180㎡)を確保し、再度移転した(2012年 2月 20・21日)。


c.旧金属博物館敷地に残置していた大型資料の移設

青葉山にある旧金属博物館の建物が地震の被害が大きいため取り壊されることとなった。 建物内および敷地に残置したままでいた大型の資料 7点のうち、2点を理学部キャンパス内に移設した(2012年 3月)。ほかの 5点については金属材料研究所が引き取ることになっている。

展示室の補修工事、再開展示室内部について

補修工事は、破損した標本を修復、補強したうえで、新たに固定を施した。クジラ全身骨格標本については 2011年6月中旬に足場を組んで本格的な修復と点検工事を実施し、ひれ部については揺れても構造部に当たらないように角度を変更した。 また地震のため延期していた展示ケースのガラスに飛散防止フィルムを貼る加工を業者により実施した。

  • 節電のために展示用の照明を間引く作業もおこなった
  • 緊急時とくに地震発生時の対応マニュアルも作成した
  • 物品の再配置や清掃など、展示室およびロビー周りの整備を済ませ、また土日の受付体制も復活させて、 7月1日より展示室の一般公開を再開することができた

なお展示室、収蔵室の復旧作業および標本移動作業には地学専攻技術室、地学の学生・院生の協力を得た。

節電対策について

使用しない機器のコンセントを抜き、照明を間引き、LEDに交換するなどして、消費電力を削減。

研究への影響について

震災発生より1週間程度は研究棟への立ち入りができず、研究室の被災状況を確認することすらできなかった。 その後は、設備・備え付け機器の転倒、落下、破損等の状況を点検し、復旧に向けての活動をおこなっていたが、直接の被災にくわえて、食料、ガソリン不足などから出勤困難の教職員が増加したこともあり、研究活動の前提となる復旧活動は困難をきわめた。
復旧中に何度か大きな余震にみまわれたことも、このような活動の遅延の原因となった。
また、すぐさま研究者個人の研究を再開するよりも、自然史系博物館の重要な使命のひとつとして、東北地方一帯、とくに沿岸部にある被災施設の標本レスキュー活動を優先するべきだと考え、震災発生のおよそ1ヶ月後よりスタッフ数名が被災各地において標本回収をおこない、その大半を標本館等に収容した。
1ヶ月後というのは、さしせまった人命の危機がなくなりつつあった時期のことで、各施設の被災状況の確認自体は震災発生の数日後より開始していた。
標本回収に一定のめどがついたのは、秋をすぎた頃である。 さらに、7月までは標本館の早期開館のため、教員の研究室に所属する学生にも協力してもらい、標本を一時保管場所へ移動をおこなうなど、学生の研究活動にも影響が出てしまったが、博物館の各種機能の復旧のため、利用できるさまざまなマンパワーを注いだ。

災害時に役立ったことや教訓、改善すべき問題点

  • 携帯ラジオ、電灯を多数備えるべき
  • 避難集合しているさいに、安否確認のほか、皆で情報を共有するなど、何か実のあることができないか。解散指令がでるまでの 約 2時間で一人一人が何かできることはなかったか
  • 練りゴムによる展示標本の固定はとても効果がある
  • 収蔵室で棚の固定を施す必要がある
  • ラック式の移動棚で、何かよい転倒防止策がないだろうか
  • 地震後、標本館を離れるとき、来館者の行動の把握ができていなかったので、移動の安全が確保できた後の誘導方法(たとえば、公共交通機関が動かない場合にタクシー利用を促す、徒歩移動のさいの安全なルートの説明、地図の準備など)が必要と思われる

震災に関連した学術活動、社会貢献活動のリスト

  • 標本レスキュー活動、宮城県沿岸域で化石など自然史系の標本を展示、収蔵している以下の施設で、被災状況を調査し、残されている標本の救出作業をおこなった
  • 関連学会への金銭的支援の呼びかけもおこなった
    a.南三陸町歌津の魚竜館
    b.石巻市鮎川のおしかホエールランド
    c.石巻市雄勝の雄勝公民館
    d.女川町のマリンパル女川
    e.気仙沼市波路上の岩井崎プロムナードセンター

  • 総務部広報課と共催で特別展示「東日本大震災―何が起こったか―その記録と解析」を開催
    内容:河北新報による東日本大震災の写真記録、今回の地震と津波についての東北大の研究、東北大の災害対応を紹介
    会場:片平キャンパス・エクステンション教育研究棟広報スペース
    期間:2011年 9月 28日~ 2012年 3月 (さらに6月29日まで延長)

  • 「東日本大震災―何が起こったか―その記録と解析 第 2弾」を開催
    内容:震災から1年が経過して明らかになった東日本大震災の全容と、震災からの復興に向けての東北大学の取り組みを紹介
    会場:片平キャンパス・エクステンション教育研究棟広報スペース
    期間:2012年 7月 18日~

  • 企画展示「復興、南三陸町・歌津魚竜館─世界最古の魚竜のふるさと─」を開催
    内容:被災した歌津魚竜館への総合学術博物館の文化財レスキュー活動を紹介し、そこに存在した展示を再構築することで、郷土と自然史資料との関係を学ぶ
    会場:仙台市科学館エントランスホール
    期間:2012年2月7日~ 3月 25日

    ・震災遺構の3Dデータを公開に向けて収録・整備
    内容:震災により甚大な被害を受けた建造物等の取り壊しが進むなかで、これを未来に伝えるため3Dデータとして残し、研究資料また一般公開のために整備する
    期間:2013年3月~

その他

2011年 7月 8日 秋篠宮ご夫妻による総合学術博物館の視察(歌津魚竜館被災標本等を説明)