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2017/02/08
SMMA見験楽学ツアー②「太古の仙台再発見!ー広瀬川の地層と火砕流ー」レポート
学芸員をはじめとする地域の専門家を案内人として、仙台市内外の知られざる魅力を探るツアー企画「SMMA見験楽学ツアー」。2016年11月5日(土)に実施したツアー第2弾「太古の仙台再発見!—広瀬川の地層と火砕流—」では、東北大学総合学術博物館准教授・髙嶋礼詩先生と東西線国際センター駅を出発し、広瀬川流域を散策しながら500万年〜350万年前の仙台をたどりました。
みなさんは、かつて仙台が海であったことを知っていますか?550〜500万年前の遙か昔、仙台市東部から岩手県南部にかけての低地には浅い海が広がっていました。海の時代に砂や泥が堆積して形成された地層は「竜の口層」と呼ばれ、太古の仙台の様子を伝える様々な化石が発見されています。広瀬川沿いにはこうした竜の口層をはじめ、地層や化石の観察スポットがあちこちに広がっています。
たとえばここは、地下鉄東西線と広瀬川が交わる高架下の河原です。参加者が立っている足元一面に、なにやら白っぽいものが足の踏み場もないほど露出しています。
実はこれ、海が広がっていた時代に海底を流れてきた貝の掃き溜まりからできた化石層です。地面の白っぽいものはほとんどすべて、約500万年前の二枚貝の化石。竜の口層ではこうした二枚貝などの貝化石のほか、クジラなどの大型海生ほ乳類の化石も発見されています。
自分が立っている地面に500万年の時が積み重なっていると知り、参加者の皆さんは驚いた様子で足元の化石に見入っていました。
実際に、髙嶋先生が足元から化石を掘り出して見せてくれました。二枚貝の化石はすぐにバラバラになってしまうので、周りの岩石ごと採集するのがポイントとのこと。
竜の口層で採集できる二枚貝の種類はこちらのサイトで詳しく見ることができます。
→フォッシル・センダイ「竜の口層産貝化石」
また高架下から仲ノ瀬橋に向かって歩いていくと、河原のすべすべした岩の表面に、直径2〜3センチ程度の円い模様を見ることができます。あまりにたくさん見つかるので、岩が元々持っている模様に見えるかもしれませんが、これもれっきとした化石のひとつ。ここが海だった時代に底生生物が海底に穴を掘って暮らしていた跡(サンドパイプ)が、現在も化石として残っているのだそうです。何百万年も前の生物の暮らした跡が現代まで残っているなんて驚きですね。
さらに仲ノ瀬橋を目指して河原を進んでいくと、草木の茂る崖面が対岸に姿を現しました。
「あちらを見てください」
髙嶋先生が指し示した崖面の地層を見てみると、ごろごろした礫岩の層が含まれているのが見えます。
「あの礫岩は、さきほどサンドパイプを観察したシルト岩という岩の上に積み重なっています。「向山層」といって、陸上で堆積した地層です。竜の口層は海底で堆積した地層ですから、二つの地層の重なりはこの地域の環境が海から陸へと変化したことを示しています」
また礫岩の上に重なっている黒い地層は、仙台の伝統工芸品・埋木細工の原料でもある亜炭が含まれています。向山層に見られるこうした礫岩層や亜炭層は,この地域が海底から陸域の河川や泥炭地に変化した証拠だと髙嶋先生は言います。
▲「おや、これも亜炭ですね」と髙嶋先生につつかれて出てきた亜炭。
そして崖面に露出した数メートルの厚みを持つ灰色の地層は、約350万年前に仙台一帯を襲った火砕流の堆積物でできた「広瀬川凝灰岩」です。火山の噴火によって発生した火山灰や軽石が時速約100㎞もの速さで仙台一帯を覆い尽くしたとされており、一度の発生で堆積した地層の厚みからも噴火の規模の大きさがうかがえます。
この火砕流がどこからやってきたのかは長年謎とされてきたのですが、髙嶋先生が研究室の学生とともに調査したところ、広瀬川凝灰岩は蔵王町の東部から村田町にかけて分布するものと同じ性質の成分を持つことが分かりました。そのため350万年前の火砕流は現在の蔵王町東部の火山から噴出したとみられ、現在も調査が続けられています。
最後は国際センター駅から東西線に乗って青葉山駅に移動し、東北大学総合学術博物館(理学部自然史標本館)を見学しました。
理学部自然史標本館では東北大学の研究などを通じて収集された約1200点の資料を展示していますが、そのなかには竜の口層で採集された生き物の化石標本も展示されています。
この日は東北大学総合学術博物館を拠点に活動している、学生によるミュージアム支援団体「みちのく博物楽団」のみなさんが展示解説をしてくれました。
みちのく博物楽団では原則として毎週土曜日に展示のみどころを解説するスポットガイドを行っているほか、展示をより楽しむための館内スタンプラリーの制作などに取り組んでいます。竜の口層の化石の特徴や生き物について解説を聞いた参加者のみなさんは、「さっきこの地層を見てきたんですよ」「先生の解説はそういうことだったんだね」と広瀬川の散策を振り返りながら展示に見入っていました。
広瀬川は仙台の人々にとっておなじみの場所ですが、実は太古の姿をたどる様々なヒントがちりばめられています。ふだん広瀬川沿いをおさんぽコースにしているという参加者からは、「いつも歩いている場所なのに、今日見たものはいままで見えていなかったものばかりでした」との感想をいただきました。
現代の私たちに寄り添いながら、はるか昔の光景や生き物の生活を伝える広瀬川。あなたも「旅のしおり」を片手に、太古の仙台へタイムスリップしてみてはいかがでしょうか。
(SMMA事務局・吉田)