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SMMA取材レポート 仙台市天文台 ミュージアムスペシャル体験 「東北最大!「ひとみ望遠鏡」操作体験」

SMMA取材レポート
仙台市天文台ミュージアムスペシャル体験
「東北最大!「ひとみ望遠鏡」操作体験」
11月2日
写真と文:佐藤泰(前せんだいメディアテーク副館長)

7月以降、各館で行われてきたSMMAスタンプピクニックの14館達成プレゼント。延べ20回にわたって行われたミュージアムスペシャル体験には、全体で40組88名の応募者のみなさんが参加したが、その最後を飾ったのは天文台の、「ひとみ望遠鏡」操作体験である。ご存じのとおり、天体観測はお天気に左右される。天気予報と参加する方、さらには天文台の都合がぴったり重なる、それこそ天文学的確率?のタイミング を探して、ようやくこの予定日時が決まったそうだ。それにしてもさすが天文台というべきか、予定の時間の少し前に錦ケ 丘に着く頃には、西の空にうっすらと雲がのこるものの、ほぼ全天が鏡のように透き通り、夜に向けて蒼から群青へとその色を変えはじめていた。

美しい夕空に迎えらえるように館内に入ると、エントランスホールの真ん中で、宇宙飛行士のようなユニフォームを着たスタッフが、30人ほどの入館者を前にレクチャーをしている。話しているのは土佐誠台長だった。そのまわりを、 プラネタリウムに向かう人、ショップで買い物をする人などが、思い思いに楽しげに行き来する。遠い未来に宇宙観光があるとしたら、待合室ってこんなかんじだろうか、などとぼんやり空想を膨らませるうち、約束の時間がきた。

きょうの体験者は山形市から来られた近藤さんご夫妻と高校1年生の甥御さんの3人。なんと6倍の競争率を突破して選ばれた幸運なみなさんである。ひとみ望遠鏡の観測室につながる通路を歩きながら、担当する天文台の溝口小扶里(さほり)さんが「さっきまで晴れていたのに、雲が出てきちゃいました」と残念そうに言う。あの空の、いったいどこから雲がわいたとのだろうと思うまもなく、望遠鏡のコントロール室に入る。いくつものディスプレイが並ぶ様子はあたかも飛行機の管制室のようだ。そこでまずはコンピュータを起動したあと、おもむろに望遠鏡のある観測室に入る。

1.3mの口径をもつ反射望遠鏡は、一般に公開されている望遠鏡としては日本で4番目の大きさである。毎週土曜日の観望会で市民に親しまれているほか、当時職員だった小石川正弘さんが超新星「2010jo」を発見したことでも知られる。2010年の秋に愛称を募集したところ、全国から6,666通の応募が届き、その中から選ばれたのが「ひとみ」である。口径の「1.3m」と、宇宙を見る「瞳」をかけた名前だ。しかし、その愛称が発表されたわずか1ヶ月後に震災が襲う。天文台の施設は大きな被害はなく4月に再開することができたが、精密機械でもあるひとみ望遠鏡は、解体修理や部品交換に時間を要し、観測を再開できたのは9月であった。そして2011年10月8日の土曜日。ひとみ望遠鏡が市民の前に復活した日である。一目見ようと100人を超える市民が今か今かと待つ様子をみて、溝口さんは「涙が出そう」なほど感動したそうだ。

望遠鏡で何を見るかは、望遠鏡のあしもとにあるタッチスクリーン式のディスプレイを使って決める。近藤さんが溝口さんの説明を聞きながら、ディスプレイからおそるおそる希望の天体を選択した瞬間、頭の上からガタンをいう音。思わず見上げると、ゆっくりとドームの窓が開き、そのすき間から夜空がひろがっていく。巨大な望遠鏡は指定されたターゲットに向けて、まるでなにかの発射台のように自動的に回転し仰角がコントロールされる。望遠鏡の先の夜空には、さっきの溝口さんの言葉通り、ぼんやりと雲がひろがっていた。どんなに性能が良くても、光学望遠鏡である以上雲には勝てない。最初に見たのは七夕で有名な「織り姫星」。ベガルタのベガだ。1等星の輝きは、望遠鏡で見ると、線香花火の最後に火薬が丸くかたまり、小さな火花がちらちらと飛び出ているようすに似ていた。近藤さんは溝口さんと、そしてなにより雲の行方と相談しながら、次々とターゲットを定める。狙ったのは海王星、デネブ、M13球状星団。M31のアンドロメダ銀河には2回挑戦した。「きょうはどうしてもアンドロメダが見たかったんです」と近藤さん。宇宙戦艦ヤマトシリーズの2作目以降登場する宇宙戦艦の名前でもある。1978年発表のこの作品のアンドロメダという名前に、近藤少年はこころときめかしたのだそうだ。

ひとみ望遠鏡は毎週土曜日の19時から観望会があり、誰でも参加することができる。もちろん天候に左右されるのは言うまでもない。今回はその前の時間帯を使った特別体験コース。ターゲットの選択だけでなく、システムの開始、終了等の体験も加わった。コントロール室にもどって終了しようとすると、若干機嫌を損ねたコンピュータへの対応が必要になり、スタッフの大変さを目の当たりにすることもできた。30分強の短時間ではあったが、ひとみ望遠鏡を独り占めした近藤さん、心はすっかり宇宙に魅せられたようで、「また望遠鏡欲しくなったなあ」とつぶやくご主人に、奥さんもうなずいていた。

近藤さんは仙台には買い物などで来ることが多く、そのたびに博物館や美術館などに寄ることも楽しみのひとつにしていたそうだ。今回のスタンプピクニックはたまたま歴史民俗資料館で案内のちらしを見つけ、ごく自然な気持ちで挑戦したとのこと。日本有数の規模を誇るひとみ望遠鏡は、たんに仙台だけの瞳ということではすまされない 。東北一の天文台として、周辺の人々の宇宙へのまなざしを支える役割をも担っていると言えるだろう。それと同じように地域のミュージアムも、単に観光資源というだけでなく、仙台に足を運ぶ機会の多い周辺地域のみなさんにとっても大切な財産でありうることを忘れてはならないとあらためて思う。しかし、それはともかく、近藤さんご夫妻。ミュージアム巡りを楽しみ、望遠鏡の夢に共感しあう姿を拝見していたら、なんだかうらやましくなってきた。いっしょにきた甥御さんは、実は天文学にあまり関心はなかったのだそうだが、天文台での体験以来、一転して興味を持つようになったとの後日談もお聞きした。この日の体験が、なんらかのかたちで新しい出会いや、次の一歩を踏み出すきっかけになったのなら、ミュージアムとしてこれにまさる喜びはない。これからも折に触れてミュージアムを活用し、さまざまにお楽しみいただきたい。

 

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