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SMMA取材レポート 東北大学総合学術博物館 ミュージアムスペシャル体験 「体験教室!自分だけの化石レプリカをつくろう」

SMMA取材レポート
東北大学総合学術博物館 ミュージアムスペシャル体験
「体験教室!自分だけの化石レプリカをつくろう」
8月31日
写真と文:佐藤泰(前せんだいメディアテーク副館長)

今回のミュージアムスペシャル体験参加者で「化石レプリカづくり」を希望したのは7組。教室は8月31日の午前と午後に開かれた。午後の部で、博物館のこぢんまりした作業室に集まった参加者は、恐竜と化石が好きで科学館によく行っていたという4才の石山優太ちゃん親子、お母さんが大学で学芸員過程の先生だという櫻井さん親子、ピクニックではじめて行った芹沢銈介美術工芸館が良かったという蛯名さん親子の3組。指導するのは根本潤先生。きょう作るレプリカは、本格的な石膏標本と、樹脂製のかわいい化石アクセサリーの2種類だ。博物館のご厚意で親子それぞれひとつずつ作ることになった。

まずはじめは、石膏でのレプリカづくり。10㎝ほどのアンモナイトや三葉虫などの化石標本のなかから好きなものを選ぶと、博物館が事前に用意した型を手渡してくれる。手渡される型を見ながら、どこかで見覚えのある色合いだなと思っていたら、型も石膏も歯科用のものなのだそうだ。精密な型どりが求められる専門家のための材料と聞いただけで、なんだか期待も膨らんでくる。

石膏の粉を水でとき、注意深く型に流し込んでいく。石膏に空気が入ってしまわないように、型を小さくゆらして空気を抜くのがきれいにつくるコツだ。

石膏が固まるのを待つあいだに、化石から型をとる作業をはじめる。型をとるのは比較的容易に入手可能なアンモナイトの化石。型どりに使うのは歯科用のシリコン材。2色のペースト状の材料を同じ量だけ手に取り、指でこねて、きれいに混じったら化石にかぶせる。アンモナイトは巻き貝と違い中央がへこんでいるので、そこにしっかり型を押し込まなければならない。今の巻き貝がアンモナイトと同じ巻き方だったら、ベー(=バイ=貝)ゴマはこの世に存在できなかったなあ、などと妙なことに思いを巡らす。ゴムのように固まったシリコンから化石を取り出せば、オリジナルの型のできあがりだ。

型に入れるのは、お湯で溶かせるプラスチック。さまざまな色があり、それらを混ぜ合わせて中間色やマーブル模様なども作れるすぐれものだ。こちらは歯科用ではないので画材屋さんなどでも手にはいる。60℃のお湯で、それぞれ好きな色のプラスチックを溶かしたら、型に押し込む。お湯をわかす鍋や、お湯に入れる割り箸だけみると、プラスチックというより色のついた水飴のようだ。そこにマグネットやペンダントの金具を取り付ければオリジナルの化石ドロップ、じゃない、アクセサリーの完成。ちなみに、ゴールドは渋いブロンズのような色だったが、それが逆に化石の色に近かったのが意外でおもしろかった。
最後は、お待ちかね、固まった石膏レプリカを取り出す作業。プラスチックで型抜きの練習をしたばかりなのでコツはつかんでいる。それでもやっぱり取り出す瞬間は緊張が走る。型から姿を現した石膏のレプリカは、こまかな部分まで精巧に再現されていた。先生からは、自宅の水彩絵の具で着色することもできると言われたが、石膏が生み出す陰影の美しさを目の当たりにすると、そこに色を塗るにはかなりの勇気が必要になりそうだった。

小さいときの体験がきっかけで何かが好きになったり、その道を究めたりということは、程度の差こそあれ多くの人の記憶の中にもあるだろう。ミュージアムは本来「見る」という体験を軸にするが、百聞は一見にしかずの言葉通り、それだけでもその効用は計り知れない。しかし一方で、見ることだけに頼ると、大切なことがそれこそ見過ごされてしまうことも少なくない。だからこそ、せっかくのミュージアム体験を少しでも豊かにするために、見るだけではないさまざまな体験を組み込む努力が始められている。
今回のミュージアムスペシャル体験、最年少の4才の男の子を含め、全員が最後まで目を輝かせながら取り組んでいた。石膏のレプリカはそれぞれの家で大切に飾られるだろうし、もしかするとそれぞれが作った型は、これからもいろんな種類のアクセサリーを量産するかもしれない。参加者全員にとって得がたい体験となったことはまちがいない。
レプリカを見ながら、参加した子供たちが大きくなる頃には、今注目を集めている3Dプリンターがそれこそ家庭用で使われる時代になっているかもしれないと考えた。資料や標本のデータがダウンロードされ、リサイクル可能な材料で、しかも実物と同じ色彩と質感を持った複製が簡単に作れるとなれば、産業のありかたはもちろん、学校にも博物館にも大きな影響が及ぶだろう。しかしそれはあくまでメディアの問題だ。どんなにメディアが変わっても、実物がもつ意味や、それに向き合う人間のありかたは変わりようがない。型どりも石膏も、いつの日にか過去のものになるかもしれないが、しかし大切なのは、それぞれの体験から始まる、その人のそれからの人生なのだ。

 

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