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2012/01/27
冬の森林公園点描
今年の冬は雪が少なく、晩秋にできた落ち葉の絨毯がそのまま残っています。森林公園の観察路沿いは落ち葉が乾いたままなので、踏みつけると足元から、かさかさと軽やかな音が聞こえてきます(fig.1)。
台原森林公園で唯一今花を咲かせている植物があります。普通の花は春から秋にかけて花をつけるのですが、ヤツデは晩秋から冬にかけて花をつけます(fig.2)。
ヤツデという名前ですが、葉が8つに分かれることはほとんどありません。一般に奇数に裂けるからです。7もしくは9に分かれるのが正しいところです。植物図鑑によると分布は茨城県以西ということになっているようですが、庭木として植えられること、相当に耐寒性があると言う点で仙台周辺でもよく見かける低木種です。森林公園には庭木として植えられたものから鳥が種子を運んできたものだと考えられます。
ウコギ科の植物は、タラノキをはじめ食用になるものが多いのですが、ヤツデは食されません。葉を乾燥させたものが八角金盤と呼ばれる生薬になるそうです。
効能としては、去痰(気管や気管支にたまった痰・たんを除去すること)に使われていたそうですが、薬と毒は表裏一体で、濃さが問題になります。ヤツデの葉にはヤツデサポニンという物質が含まれ、過剰に摂取すると下痢や嘔吐を起こすとされています。素人は口にしてはいけません。
冬芽の観察も、大変楽しいものです。写真はオニグルミの冬芽です(fig.3)。
葉痕(葉が落ちた跡)がヒツジの顔のように見えます。冬に観察会を行うときに必ず紹介するテーマの1つです。オニグルミは典型的な陽樹で、芽生えの頃から十分な陽光を必要とします。そのため他の木々の根元では生き残ることができません。谷に接する緩斜面など湿気の多い所で旺盛に成長する樹木です。材は大変強く、狂いが少ない上、木理が美しいため、高級家具や彫刻、工芸品の材料として用いられています。
昨年の3月は大きな地震とそれに起因する巨大津波で、仙台市民にとって忘れられない春となってしまいました。
厳しい寒さの中にあっても、春の芽吹きに備えている冬芽を見ると、力を合わせて仙台の街が明るくなるように、がんばらなければという気持ちになります。
仙台市科学館学芸員/指導主事 長島康雄