ARTICLE
2019/07/18
開館10周年記念特別展「開・首長の棺ー福島県喜多方市 灰塚山古墳の調査成果ー」レポート
今回は、東北学院大学博物館で開催中の開館10周年記念特別展「開・首長の棺—福島県喜多方市 灰塚山古墳の調査成果—」(2019年6月8日(土)〜7月20日(土))の様子をご紹介します。
▲今年で開館10周年を迎える東北学院大学博物館。10周年記念特別展「開・首長の棺—福島県喜多方市 灰塚山古墳の調査成果—」では、東北学院大学文学部歴史学科辻ゼミナール(考古学)が、2011年から7年間、計9回にわたる発掘調査を行った灰塚山古墳の調査成果を一挙に紹介しています。
▲東北学院大学博物館と言えば、研究に携わった学生さん達が展示を分かりやすく解説してくれるのが特徴です。丁寧に解説してもらえるので展示を詳しく知りたい方も、逆にあまり詳しくない方も展示を楽しむことができます。今回は、実際に灰塚山古墳の発掘に参加していた大学院生の横山舞さんと石澤夏巳さんに解説していただきました。お話によると、東北学院大学では、夏休み・春休みと学生の長期休暇を利用して発掘調査が行われ、毎年20名前後の学生が参加しているそうです。「夏は暑く、春先は雪かきが大変でした!」など、当事者ならではのエピソードを交えながらの解説は楽しくて聞き応え充分! みなさんも東北学院大学博物館に行かれた際は、ぜひ解説の学生さんに声をかけてみて下さい。
▲今回の展示で紹介する灰塚山古墳は、福島県喜多方市の会津盆地に位置しています。周囲を田園と山に囲まれ、古墳自体も鬱蒼とした木々に覆われていますが、地形を測量して図面に起こしてみると、前方後円墳の形をしていることが分かります。会津盆地では、これまでにもたくさんの古墳が見つかっていますが、従来調査されている古墳はいずれも前期のものだったため、中期の古墳の実態は分かっていませんでした。そのため、中期の古墳である灰塚山古墳の調査は、会津の古墳時代中期の様相を知る上で重要な手がかりとなりました。
▲学生さん手作りの模型を見てみると、後円部の墳頂に2つの穴が描かれています。これは埋葬施設があった場所で、発掘調査ではこの2つの埋葬施設から竪櫛(たてぐし)や青銅鏡などの副葬品、埋葬されていた人骨などの重要な資料が見つかりました。
▲まずは、第1主体部と呼ばれる大きい方の埋葬施設をご紹介します。ここには木製の棺と、その中に被葬者の人骨があったと考えられますが、残念ながら長い間、酸性の土の中にあったので、棺も人骨も溶けて無くなっていました。そのため、当時発掘していた学生さん達は、土の色の違いを慎重に見分けながら棺があった場所を見極めて掘り進めたそうです。調査の結果、なんと8mもある大きな棺だったことが分かりました。その大きさを体感できるように展示場の壁に、棺の跡を写した大きな写真が貼られていましたが、その写真でもまだ半分の大きさということで、実物の大きさがより一層うかがえます。この棺の跡からは、大刀や竪櫛、青銅鏡、腕飾りなどの貴重な副葬品が見つかりました。
▲こちらが出土した青銅鏡です。鏡の文様から「分離式神獣鏡(ぶんりしきしんじゅうきょう)」と呼ばれる獣の像と神様の像が描かれた鏡であることが分かりました。実は、このような鏡は西日本で見つかることが多く、今のところ東北地方では類例がないそうです! また、この鏡とよく似た鏡が宮崎県でも見つかっているのですが、遠く離れた宮崎と福島にどのような関係があったのかはまだ良く分かっていないということで、謎とロマンが深まります。ちなみに、特別展の会場や図録で見かける可愛らしいキャラクターの”じゅうぞう”は、この鏡の獣像(じゅうぞう)をモチーフにしています。目の付け所が斬新! 実物は中々シュールな文様ですが、”じゅうぞう”の効果で実物も可愛く見えてくるのが不思議です。
▲こちらは、特殊な形をした竪櫛がまとまって見つかった部分を周囲の土ごと取り上げて保存処理したものです。竪櫛とは、古墳時代の髪飾りのことなのですが、灰塚山古墳で見つかった竪櫛は、大きな竪櫛に複数の小型の竪櫛が連結したものが組み合わさった特殊な形をしています。頭につけるには大きすぎるので、埋葬の儀式用に作られた竪櫛ではないかと考えられています。組み合わさった特殊な形もとても珍しいのですが、まとまって見つかった状況も珍しく、ひとつひとつが少しずつずらして置かれていることから、無造作に棺に入れていたのではなく、意図的に被葬者の体の上に置かれていたことがうかがえてきます。特殊な構造をもつ竪櫛の全体像が分かるとても重要な資料です。
▲次に、第1主体部の隣にある石蓋で覆われた石棺(第2主体部)についてご紹介します。調査当時は「早く石蓋を開けて中を見たい!」という気持ちを抑えつつ、石蓋や蓋の上に置かれた鉄製の武器などを調査していたところ、あっという間にその年の調査期間が終了してしまい、中を見ることができたのはその翌年だったそうです。翌年、満を持して石蓋を開ける様子は動画で紹介されており、男子学生が4人がかりで石蓋を持ち上げて慎重に動かす様子など現場の雰囲気がよく伝わってきます。緊張感のある映像の中で、熊避けのためにかけられていたポップな音楽が鳴り響いているのがまたまたリアル!
▲石蓋を外し、中を丁寧に発掘していくと被葬者の人骨が見つかりました。東北で古墳時代中期の人骨がほぼ全身に近い形で見つかることは大変珍しく、会場では、その貴重な状況を等身大の写真パネルで見ることができます。当時の人がどのような姿で、どのような生活を送っていたのか知る手がかりとなる人骨を考古学以外の分野と共同で研究した結果、実に様々なことが分かってきました。例えば、人類学的な分析から見ると、人骨の性別が男性で身長は158.3cm程であったことや、年齢は50歳以上で腰が悪かったことが分かってきました。また理化学的な分析からは、この人物が水産物、特に川魚を食べていた可能性が高いことが分かり、当時の人々の生活を知る上で重要な手がかりとなっています。ちなみに、発掘していた当時、学生さん達はこの人骨に「おはようございます!」と挨拶してから作業を始めるのが日課となっていたそうです。
▲人骨を3Dで復元した姿が、こちらの”首長”です。会場で流れている「首長 THE MOVIE よみがえる灰塚山古墳の主」では、”首長”が棺に納められた様子や、腰が悪そうに歩く様子まで再現されており、発掘された人骨がどのような姿だったのかイメージしやすいように紹介されています。また、”首長”の等身大写真パネルもあるのですが、こちらは横に並ぶことで”首長”の姿を実感できる上に、”映える”写真も撮れるというオススメスポットです!
▲撮影スポットの他にも、消しゴムに”じゅうぞう”を彫って作った来館記念スタンプや、発泡スチロールに重りを入れて石蓋の重さを体感できるようにした模型など、来場者が展示を楽しめるような創意工夫が会場のあちこちに見られます。どれも手作りなのにハイクオリティ! 観覧の際はぜひ学生さん達の心遣いにもご注目下さい!
▲歴史的に重要な発見がたくさんあった灰塚山古墳。展示の最後には、その発掘がどのように行われたのかを紹介するコーナーがあります。大事な長期休暇を返上しての発掘作業は中々大変そうですが、毎年作られるゼミTシャツなどの学生らしいアイテムを見ると、楽しみながら活動していた様子もうかがえてきます。
▲体力勝負の発掘調査を支える食事も当番制で学生が作っています。20人分の食事を決められた予算の中で朝・昼・晩と作るのは至難の業。「食当日誌」には、日々の献立が記録されているので、気になる方はぜひのぞいて見て下さい。自身の食生活を見直したくなるくらい学生さん頑張ってます!
▲発掘に欠かせないアイテム”野帳”の展示コーナーもあります。実際に学生さんが現場で使っていた野帳の中を見てみると、とても丁寧に発掘の記録が綴られていて驚きます。しかし、よくよく見てみると休憩中のらくがきなどもちらほら。食事のメニューらしき走り書きを見つけると、「明日食事当番だったなのかな?」と色々想像出来てしまうのも楽しみ方の一つです。発掘の成果を伝える展示はよく目にしますが、発掘の様子を伝える展示はあまり見たことがないのでとても興味深い展示でした。学生さん達の、こんなに凄い発掘をやり遂げてもなお隠しきれない学生らしい一面を垣間見ることができる魅力的なコーナーです!
開館10周年記念特別展「開・首長の棺 —福島県喜多方市 灰塚山古墳の調査成果—」は、2019年7月20日(土)まで開催しています。7年間にわたる調査の集大成となる本展はどれも貴重な資料ばかり! 重要な調査研究だけあって専門的な内容ですが、学生さん達の分かりやすい解説と紹介パネルで、どなたでも楽しめる展示となっています。この機会にぜひ足をお運び下さい!
また、東北学院大学博物館では次の展示に向けて既に学生さん達が動き出しているようです。展示の制作風景など日々の活動の様子は、東北学院大学博物館の公式Twitter(https://twitter.com/tgu_museum)で情報発信しておりますので、こちらもぜひご覧下さい!
(事務局・帖地)
↓↓↓その他の東北学院大学博物館のレポートはコチラ↓↓↓
*「まぼろしの“トミザワトウヒ”ツリーづくり」レポート
*東北学院大学博物館はじめましてレポート
*SMMA見験楽学ツアー⑥レポート「向山から読み解く仙台ーパノラマ絵葉書でタイムスリップー」
*SMMA見験楽学ツアー⑭「学都仙台Walker —近代高等教育のおもかげを訪ねて—」レポート
【お問い合わせ】
東北学院大学博物館
TEL:022-264-6920