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2017/02/12
SMMA見験楽学ツアー③「古絵図でたどる伊達政宗の城ツアー―仙台城に登城する―」レポート
学芸員をはじめとする地域の専門家を案内人として、仙台市内外の知られざる魅力を探るツアー企画「SMMA見験楽学ツアー」。第3弾は仙台市博物館の企画展の見学と仙台城本丸への散策を通して仙台城の面白さを知るツアー、「古絵図でたどる伊達政宗の城ツアー―仙台城に登城する―」を2016年11月12日(土)に実施しました。
まずは仙台市博物館で企画展「戦国の伊達・政宗の城・仙台の町―斎藤報恩会寄贈の名品」を博物館学芸員・菅原美咲さんの解説を聞きながら見学しました。
今回の企画展は、財団法人斎藤報恩会から仙台市博物館へ寄贈された約3000点の資料のなかから選りすぐりの資料を展示し、仙台の歴史や文化を紹介するというもの。なかでもさまざまな時代に制作された、仙台城や城下町、仙台藩領を描いた大きな絵図がずらりと並ぶ様子は圧巻でした。
菅原さんによれば、絵図に描かれる内容はその目的によって異なるといいます。
たとえば現存している絵図のなかで最も古い、正保2年(1645)制作の「奥州仙台城絵図」は、城の縄張りや城下町の構造を幕府に報告するため作られたもの。軍事的な情報を中心に描いているため、この絵図には城内の屋敷は描かれていませんが、正保3年の地震で倒壊し二度と再建されなかった本丸の三層櫓が描かれています。また、政宗が亡くなった後に増築された二の丸や西館(五郎八姫の屋敷)が記されており、建設当初から正保までの城の移り変わりを伝えてくれる貴重な絵図だといいます。
また幕府に石垣や堀の修復を申請する際に提出する絵図もあれば、仙台藩内で使用するための絵図もありました。絵図の用途・目的によって建物の表記も変わります。たとえば城の表記について、幕府提出用では「本丸」「二の丸」と表記するのに対し、藩政用では本丸を「御本丸」、二の丸を「御二の丸」と敬称をつけた表記が見られ、城を治める藩主への敬意を読み取ることができます。
参加者も複数の絵図を行き来しながら、時代や意図による描かれ方や表現の違いをじっくり眺めていました。
企画展見学のあとは、いよいよ仙台城本丸までの散策へ出発です。三の丸の巽門跡を出発し、仙台市博物館学芸普及室長・菅野正道さんの案内で仙台城本丸を目指します。
ところで企画展示内の絵図の仙台城では、道中に通過する門の手前では必ず道が曲がっている様子が描かれています。これは菅原さん曰く、敵が容易に城を攻められないようにするための工夫とのこと。実際に絵図に描かれていた道を歩いていくと、道が急に曲がるポイントがいくつもありました。
直線の坂道を勢い良く登っているところに道が大きく曲がると、進む速度を落とすしかありません。また曲がりきった門の両脇には道を行く者を見下ろす高い石垣があります。門をひとつくぐるとまた坂道、曲がり角、門、また坂道……と続くこの道のり、菅原さんの解説のとおり敵の速やかな侵攻を阻む効果抜群です。
さらに沢門跡近くまで登ったところで、「ちょっと後ろを見てみましょう」と菅野さん。来た道を振り返ってみるといつの間にか、登ってきた道を林の向こうに眺められる位置に立っていました。
「途中で何度も道を曲がりながら登ってくるので、上に行くほど下の道が丸見えになるんです。坂道を進んでくる敵を、道の真横から攻撃できる構造になっているんですね」
何も知らずに坂道をのこのこ登っていた自分を思い出し、城って戦のためにあるのだなあと今更ながら実感しました……
▲曲がり角から見ると、下の道が上から丸見えなのが分かります。
北面石垣のあたりでは、仙台市文化財課・仙台城史跡調査室長の渡部紀さんが石垣の造り方について解説してくださいました。石の切り出しは石頭(せっとう)やのみを使って人力で行われていたこと、他と色が異なる石は平成期の修復時に中国から持ってきた石であること、きれいに積まれているからといって新しく修復された石垣とは限らないこと、などなどここだけの話を聞かせていただきました。
▲石の切り出しは石垣を綺麗に積み上げるための重要な行程で、職人の腕の見せどころなのだとか。
(※写真は解説のためポーズを取っています。)
繰り返し修理されてきた石垣には、石材の種類や加工の方法にその時代ごとの特徴、ルーツがあります。今後の石垣の修復では、そうした修復の歴史に遺された先達の痕跡を消さないように努めることが大切だと渡部さんは言います。
無事に仙台城本丸に到着したあとは、ふだんは見ることのできない酉門跡を参加者全員で見学したほか、大手門脇櫓や五色沼の解説を聞きながら、仙台市博物館に帰ってきました。
現在の仙台城跡は石垣しか残っていないため、かつての城の姿が分からない、といった声も聞かれます。しかし今回のツアーでは絵図で仙台城の造りを眺め、本丸への道を実際に歩いてみることで、城という建築物の面白さ、奥深さを実感できたように思います。実際に城はなくとも、在りし日の姿を偲ぶきっかけは現代の私たちにも掴むことができるようです。
お天気の良い日は「旅のしおり」を片手に、仙台城の秘密を探ってみてはいかがでしょう。
(SMMA事務局・吉田)