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仙台市博物館×仙台市八木山動物公園「学芸員による動物クロストーク」レポート

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笹の葉も軒端に揺れる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。SMMA事務局吉田です。
こちらの七夕飾りは仙台市博物館の入口に展示しているもの。吹き流しや短冊、七夕線香など、昔ながらの七夕飾りが涼やかに揺れています。

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そんな仙台市博物館では、企画展「イチ押し収蔵品 主役・わき役キャラクター大集合! ゆかい★ほのぼの★お化けも登場」を2016年7月15日(金)より開催しています。
今回の企画展は仙台市博物館の収蔵品のうち、物語に登場する主役・わき役から、動物、神様、お化けまで、たくさんのキャラクターが表された収蔵品を約120点展示しています。ダイナミックな浮世絵やユーモラスな人形など、さまざまな収蔵品の並ぶ展示室は、いまにもキャラクターたちの声が聞こえてきそうなほど賑やかです。

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企画展のみどころのひとつが、動物たちの描かれ方。収蔵品にはトラやゾウ、十二支など、現代の私たちが知っている動物も描かれているのですが、実はキャプションでは説明しきれない楽しみ方がたくさん隠されています。(画像:企画展キャラクターガイドブックより)
動物にせまるなら、動物のプロに聞くのが一番! というわけで7月24日(日)、“動物のプロ”こと仙台市八木山動物公園の獣医師さんをゲストに迎え、展示品に描かれた動物たちの秘密にせまるイベント「学芸員による動物クロストーク」が開催されました。

 

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「学芸員による動物クロストーク」は、今回の企画展を担当した仙台市博物館の酒井昌一郎学芸員(左)と、仙台市八木山動物公園の獣医師である釜谷大輔さん(右)による対談イベント。実は東西線の開通で、博物館から動物公園へはたったの7分で移動できるようになりました。館と園の距離がぐっと近くなったことをきっかけに企画されたのが今回のイベントというわけです。
(ちなみにSMMAの情報誌「旬の見験楽学便」2015年冬号では、酒井さんの取材による釜谷さんのお話が読めます。)

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実は小学校の頃から趣味で版画を制作しているという釜谷さん。東日本大震災以降、八木山動物公園が毎年発行しているカレンダーの図柄は、すべて釜谷さんが園内の人気者やイチオシの動物をモデルに制作しています。
動物園で働いている職員ならではの視点で描かれる、動物たちの躍動的な姿が魅力です。

それでは当日のトークから、企画展の主な展示品のみどころと、そこに描かれた動物の生態について、対談形式でご紹介します。

 

◎トラ 〜「龍虎図 小池曲江筆」「虎図 菅井梅関筆」より〜

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酒井学芸員(以下・酒井):この二つの作品には強そうなトラが描かれていますが、この時代の日本にはトラはいませんでした。なので日本の絵師たちは中国の伝承などをもとに、見たことのないトラを想像して描いたのですが、そのために実際のトラとは少し違う姿で描かれています。
たとえば小池曲江「竜虎図」をよく見ると、背景の樹木が風に吹かれて揺れています。東アジアでは、トラは吠えると風を吹かせる不思議な力を持つと考えられていたのです。また菅井梅関「虎図」のトラは背中を丸めていたり瞳孔が細くなっていたりと、まるでネコのような姿をしていますが、実際のトラもこのような姿を取るのでしょうか?
釜谷獣医師(以下・釜谷):実はトラの瞳孔はネコのように細くはならない、と言われています。トラは食事をする時は常に周囲を警戒する動物で、どんなに親しい飼育員や自分の子どもが相手でも威嚇を怠らないのですが、その際もネコのように瞳孔が細くなったりはしません。かわりに興奮して瞳が小さくなったりします。
酒井:この絵のトラの瞳孔が細くなっているのはネコの姿を参考にしたのかもしれないですね。見たことのないトラの姿をリアルに描くために、ネコの興奮している様子を表現に取り入れたというわけですね。
釜谷:トラとネコの違いは他にもあります。たとえばネコは水が嫌いですが、トラは暑い時には自分から水に入っていきます。当園にいるスマトラトラのアイナ(♀)は、暑い日にはお尻のほうからそろりと水に浸かるんです。水場で手足を伸ばしてのんびりしていますよ。
酒井:アイナちゃんのそんなかわいらしい姿を見たら、かっこいいトラを描くのが難しくなりそうです……(笑)

 

◎ゾウ 〜「天竺舶来 大象正写図 歌川芳豊画」「天竺舶来 大象之写真 梅川画」より〜

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酒井:ゾウもトラと同様に、もともと日本にはいない動物でした。それが浮世絵に描かれているのは江戸時代に二回だけ渡来しているからです。いまご覧いただいているのは1863年に渡来したゾウを描いた作品で、絵の余白にはゾウの特徴が記されています。「足は柱のようで、指がなく、爪がある」「頭を下に向けたり、後ろを振り返ることができない」「きれい好きで、汚いところには近づかない」などとありますが、実際のゾウと比べてみていかがでしょう。
釜谷:「頭を下に向けたり、後ろを振り返ることができない」のはそのとおりで、ゾウは頭を大きく上下に向けられません。一方、指がないわけではなく、人間のように外側から分かれて見えないだけ。きちんと指の骨はあります。
また「きれい好き」というのも当たっていると思います。ゾウは肌を守るために自分のフンを体にかけることがありますが、トレーニング中も決して自分がおしっこした場所には座りませんし、地面のフンは足で避けてから座ります。
酒井:このゾウは3歳のメスだったと伝えられていますが、このゾウは“3歳らしく”描かれていますか?
釜谷:うーん、3歳にしてはちょっと痩せ気味かな……背中がぼこぼこしていますしね。
酒井:ごはんがあまりなかったのでしょうか。
釜谷:そうかもしれません。この絵では藁を食べていますけど、藁だけだと栄養的に足りないので、当園ではいろんなものを食べさせています。ただ目のあたりには3歳らしい若々しさがありますね。

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酒井:実は釜谷さんはこの絵を見ただけでゾウの種類が分かるそうなんです。
釜谷:ええ、これはどう見てもアジアゾウです。「天竺舶来」なのでアジアゾウなのは明白ですが、鼻先の形でアジアゾウだと分かります。ゾウの鼻先の突起には種類によって数が違うという特徴がありまして、1箇所だけならアジアゾウ、2箇所あったらアフリカゾウです。
酒井:たしかにこの絵のゾウは鼻の突起が1箇所だけのように見えます。耳の形なども違うようですね。
釜谷:さきほどゾウの指の話をしましたが、指の爪の数からもゾウの種類が分かります。アジアゾウは前足の爪が5本、後ろ足の爪が4本。アフリカゾウは前足が4本で後ろ足が3本です。
酒井:この絵はそうしたアジアゾウの特徴をしっかりとらえているんですね。

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釜谷:もう少しだけ足の話をしますと、ゾウの足の裏は非常に敏感で、30〜40km離れた地面の震動を感じることができます。地震が発生した時は、園が揺れる前から遠くの震動を感じ取って騒いだりしますから。
酒井:それだけ敏感ということは、足の裏をくすぐったらいやがったりするんでしょうか。
釜谷:たぶんいやがりますね、実際、足の裏を洗う時はものすごくいやがります。体が大きいぶん、いやがり方も盛大なので飼育員は大変です。そもそもゾウはデリケートな動物で、飼育担当のスタッフが替わると機嫌を損ねたりしますし、他の園に移動するとしばらくごはんを食べなくなることもあるんです。移動の際は元の動物園のスタッフが同行して、ケアをしながら移動するようにします。

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酒井:移動の話が出ましたが、この絵に描かれているゾウは長崎から日本に入国したあと、陸路を歩いて江戸まで移動しました。その後は両国の見世物小屋でたいへんな人気者になったそうです。
釜谷:このゾウが江戸に来たのは1863年のことですが、アジアゾウのトシコが仙台動物園(現・仙台市八木山動物公園)にやってきたのはそれからちょうど100年後、1963年のことでした。トシコは、2012年に59歳で亡くなるまでずっと当園で暮らしていました。当園で最も長く居た動物です。妹分だったヨシコと仲良く暮らしている姿を多くの方に見ていただきました。
酒井:まだトシコとヨシコが生きていた時、私は二頭が一緒に、ゆらー、ゆらーと体を左右に揺らしているのを見たことがあるんです。あの仲良しな光景をいまでもなつかしく思い出します。
釜谷:ちなみにゾウの歯は4箇所にあり、一生に6回生え替わるんですが、それぞれの歯を摺り合わせ草や果物をすり潰すようにして食べます。断面の摩耗が激しいので頻繁に生え替わります。ここにあるのがゾウの歯ですが、これがこの形のまま抜けてボトッ! と地面に落ちるので、もし道ばたで見かけたら相当ぎょっとすると思います。
*現在、八木山動物公園のビジターセンターにはトシコの骨格標本が展示されています。

 

◎シカ 〜「花鳥押絵貼屏風 東東洋筆」「鹿図 東東萊筆」より〜

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釜谷:シカには夏毛と冬毛があって、夏は赤っぽい毛に白い斑点、冬毛は全体的に茶色っぽい毛が生えます。
酒井:ということは、東東洋の描いたこちらのシカは夏毛のシカというわけですね。
釜谷:それから角を見ると年齢が分かります。1歳のシカの角は一本の棒状なんですが、2歳になると枝分かれが一つできます。3歳になると枝分かれが二つ、というふうに変化していくので、それでだいたいの年齢が分かります。この絵のシカは枝分かれが二つ以上あるので、年齢は3歳以上ですね。

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酒井:「鹿図 東東來筆」に描かれたシカはオス同士でじゃれ合っているようにも見えますが、これは喧嘩をしているそうですね。
釜谷:シカの角突きといって、オスがメスを取り合う時に行うものです。交尾の時期になるとオスは鳴き声を出してメスに求愛し、オスにしか生えない角をぶつけ合ってメスを取り合うのです。ちなみに鳴き声を上げるのはオスだけで、基本的にメスは鳴かないはずなんですが、当園のメスのシカはおなかがすくとブーブー言うんですよ……あれは鳴き声ではないと思うんですが……
酒井:シカは秋になると求愛のために鳴くことから、日本では古くからシカの鳴く姿に恋愛のイメージを重ねてきました。また和歌の世界では、その情景に恋愛の寂しさや切なさまでを込めました。代表的な和歌に「おく山に 紅葉ふみわけ なく鹿の こえきくときぞ 秋はかなしき(『古今集』)」があります。企画展で展示中の「富士・足柄山・武蔵野図 東東洋筆」からも、こうした表現に込められた恋愛の情景を読み取ることができます。

 

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このほか十二支やネコといったさまざまな動物についてのトークが約1時間繰り広げられました。それぞれの立場から動物への想いを込めて語る釜谷さんと酒井さんの楽しげな様子に、客席からも笑い声が。博物館と動物公園、一見関わりのない施設にも思えますが、共通のテーマに沿って各分野の専門家だからこそ分かる面白さを持ち寄ると、こんなにも話が広がるのかと楽しく聞かせていただきました。

 

トーク終了後は会場の外で、トークに登場した動物の骨や標本に実際に触れることができました。

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このぼろぼろのポリタンクは八木山動物公園のホッキョクグマのカイくんが遊び道具に使ったもの。1日遊んでいただけで歯型や爪跡だらけです。一体どうやったらこんな状態になるのかと参加者の皆さんも驚いていました。

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参加者の皆さんはゾウの歯やシカの角など、実物の重さや質感に興味津々で触れながら、釜谷さんや酒井さんに次々と質問をしていました。トークの後は、企画展をいっそう楽しんでいただけたのではないでしょうか。
それぞれのジャンルから語られる面白さを通して、ミュージアムをもっと楽しむポイントを知ることのできたクロストークでした。

 

さて仙台市博物館の企画展「イチ押し収蔵品 主役・わき役キャラクター大集合!ゆかい★ほのぼの★お化けも登場」は8月28日(日)まで開催しています。夏休みには関連イベントも盛りだくさん! 詳しくは仙台市博物館ウェブサイトやSMMAウェブサイトをごらんください。最新情報をチェックしたい方には仙台市博物館公式Twitter(@sendai_shihaku)がおすすめです。

 

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また仙台市八木山動物公園では、来年の「ふれあい動物広場」の開設に向けて、トカラヤギの飼育やフリーフライトの練習を進めています。
最近の一番のニュースは、対州馬(たいしゅうば)の子馬が生まれたこと。対州馬は長崎県対馬地域の在来馬で、かつては地元の人々の生活に欠かせない存在でした。現在は全国に約40頭が生息しています。今年6月に八木山動物公園で生まれた子馬はすくすくと成長しており、初めて外に出た日には、そばによりそう母馬に見守られながら走り回っていたそうです。
子馬の名前は7月31日(日)までに投函された来園者の案から飼育員が選出し、8月下旬に命名式を行う予定です。かわいい子馬に会いに来てくださいね。

 

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博物館と八木山動物公園を巡る際にはスタンプラリーのチェックを忘れずに! 二つの施設はどちらも、「ぐるっと3館スタンプラリー」と「市バス・地下鉄 夏休みわくわくスタンプラリー」のスタンプ設置場所になっています。
それぞれスタンプの種類やプレゼントの応募要項が異なりますので、詳しくはスタンプ設置場所で配布されているスタンプ台紙や公式ウェブサイトをご確認ください。

〈お問い合わせ先〉
「ぐるっと3館スタンプラリー」:仙台市観光課
「市バス・地下鉄 夏休みわくわくスタンプラリー」:仙台市交通局

今年の夏は仙台市博物館と仙台市八木山動物公園をめぐって、ミュージアムの楽しさを満喫してはいかがでしょうか。

 

 

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