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野生シジュウカラガンの羽数回復事業をご存知でしょうか?

シジュウカラガンは、かつて仙台市内で数百羽が越冬していましたが、繁殖地の島々に毛皮を得る目的でキツネが放たれ、その影響で絶滅の危機に瀕しています。そのシジュウカラガンの数を増やして渡りを復活させようと、八木山動物公園が中心となって取り組んでいる野生動物保護事業です。

シジュウカラガンは、カナダガンの一亜種で、学名 Branta canadensis leucopareia (ギリシャ語で、leuco白い、pareia頬)、英名 Aleutian Canada Goose、体型は小型で、白い頬と首の付け根にある白色輪が特徴的な渡り鳥です。アリューシャン列島で繁殖し、米国西海岸で越冬するものと、千島列島で繁殖し、宮城県を中心とした日本で越冬するものがいました。しかし、冒頭でも述べましたように、米国と日本の国策により、20世紀初めに毛皮を得る目的で繁殖地の島々にキツネを放したために、ヒナや夏場の換羽(鳥類の羽毛が季節によって、その一部または全部が抜け替わること)時期に飛べないシジュウカラガンは、キツネのえじきになって激減しました。米国で越冬するものは、長年にわたる米国の保護事業により、絶滅の危機を脱しました。しかし、日本に渡ってくるものは、環境省のレッドデータブック(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種について、それらの生息状況を取りまとめたもの)の中で、ごく近い将来において絶滅の危険性が極めて高い種の一つになっており、数が少ないのです。

観文禽譜のシジュウカラガン(宮城県図書館所蔵より複写)

▲観文禽譜のシジュウカラガン(宮城県図書館所蔵より複写)

シジュウカラガンは、仙台と歴史的に関わりの深い鳥です。宮城県図書館に、「観文禽譜(かんぶんきんぷ)」(1831年)という江戸時代最大の鳥類図鑑が所蔵されています。著者の堀田正敦(ほったまさあつ)(1755-1832年)は、仙台伊達家の出身で、徳川幕府の要職(若年寄)を42年間勤めた有能な行政官で、鳥類学者でもありました。特にガン類について沢山の記事がこの図鑑の中に見られ、正敦が仙台にいた頃は、「シジュウカラガンが甚だ多く、終日狩りをすると十のうち七、八はこの鳥を獲た。」と書いています。

日本では、関東(~1920年代)や仙台周辺(~1935年頃)に、百羽単位で越冬のために飛来していましたが、その後日本への飛来は途絶えたと思われていました。けれども、1960年代に、宮城県の伊豆沼(いずぬま:日本最大級の渡り鳥の越冬地で、栗原市と登米市にまたがる沼)で再発見されました。しかし、その数は1~数羽に減っていました。

1983年に、八木山動物公園と日本雁を保護する会による羽数回復事業がスタートしました。米国から八木山動物公園に届いた親鳥の飼育繁殖と、千島列島から日本へ渡る群れの回復を目指す、日ロ米の共同事業も始まりました。1992年に、カムチャッカにロシア科学アカデミーの繁殖用施設が完成し、親鳥が米国と八木山動物公園から運ばれました。そして、キツネがいないことを確認した上で、1995年から、かつての繁殖地である千島列島のエカルマ(越渇磨)島に、カムチャッカの施設で増やしたシジュウカラガンを運び放鳥を始めました。

最初は、放鳥する個体の年齢、群れ構成、放鳥時期などをいろいろ変えて実施し、その結果を受けて、本格的な放鳥を続けました。開始後10年位は、放鳥しても渡って来なかったり、渡って来ても数羽だけ、更にその個体が翌年連続して飛来しなかったりと、成果が上がりませんでしたが、その後徐々に飛来数が増え、2009/10越冬期は、11月8日に56羽の群れが越冬のため伊豆沼に飛来したのを皮切りに増え続け、国内で過去最高の89羽ほど(昨年度は59羽飛来確認)観察されました。2月28日には、北帰行に向けて宮城県などから秋田県の大潟村(旧八郎潟)に83羽が集結したのが確認されました。この中には、2年~5年連続飛来している個体16羽と、放鳥個体から生まれた幼鳥も含まれています。人工の施設で生まれ育った個体が、渡りを学習し、自然界で順調に繁殖するようになった結果、飛来数が漸増するようになりました。宮城県、仙台市の冬の風物詩であったシジュウカラガンの渡りが復活するのも夢ではないようです。

シジュウカラガンは、八木山動物公園の爬虫類館とアフリカ園の間にある「ガン生態園」でご覧になることができます。また、旭山動物園、釧路市動物園、上野動物園、多摩動物公園、井の頭自然文化園、埼玉県こども動物自然公園、千葉市動物公園、広島県福山市立動物園でもご覧になれます。更に、4月中旬にオープンする八木山動物公園のビジターセンター内の展示室には、シジュウカラガンと羽数回復事業について、わかりやすく紹介したコナーが出来る予定です。次回のレポートでは、そんな新しくオープンするビジターセンターの展示室を詳しく紹介しましょう。COMING SOON!!  楽しみにお待ち下さい。

なお、八木山動物公園は、これまでの野生シジュウカラガン羽数回復事業の功績が認められ、2007年に「環境省自然環境局長賞」を受賞しました。

野生シジュウカラガンの羽数回復事業HP ↓
https://www.city.sendai.jp/zoo/kaifukujigyo/index.html

仙台市八木山動物公園 学芸員 阿部敏計

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