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2012/02/17
野外展示「氷河期の森」のこと
春が始まった、と気がつくのはヤチハンノキ(カバノキ科)の花粉が雪に黄色く落ちたり、春の強風に備えた剪定がおこなわれたりする今の時期です。まだ寒いよ、と思いつつ、迎える春をイメージします。年度内の移植を計画しているケヤマハンノキ(カバノキ科)は「氷河期の森」のどこに植えよう。今はひざ丈、私と背が並ぶまで数年、10年後には見上げるようになっていて、花を咲かせているはずです。
「氷河期の森」という植生復元の試みは、発掘調査で得られた多量の出土遺物の情報に基づいて始まりました。地底の森ミュージアムの開館が1996年11月2日で、植栽工事はその10月に終了しています。2万年前の仙台は現在の仙台と比較して年平均気温が7~8度低く、その環境にあった森をつくっていました。そのため「氷河期の森」の植物は、自然環境においては仙台より寒い地域に分布するものが多いのです。
「氷河期の森」は「さわれる展示」なのでさわり心地や、匂いをゆっくり楽しんでください。足元の草丈がやや高いのは、その踏み心地まで「展示」だからです。どうぞ油断なさらずに。ここは旧石器人がシカを狩りに来た森ですよ。(そういう気分が大切)
セリバオウレン(キンポウゲ科)は2月に花を見ることもあるので(2010年は2月16日に写真を撮っています)この時期は天気に一喜一憂しながら足繁く通います。今年の開花はまだ先のようなので、画像は昨年のセリバオウレンです(fig.1)。
「氷河期の森」に植栽されているフッキソウ(ツゲ科)は2006年に北海道から来ました(fig.2)。「富貴草」という和名は「常緑の葉が茂る状態を人家の繁栄を祝うたとえとした」ものだそうです。ソウ(草)といいますが、「ソウなのか」「ソウでないのか」は草本と木本の定義のしかたによっていろいろ異なるようで、小低木としている本もあれば、常緑性多年草としている本もありました。そういうところ、なかなか格好いいなあと思います。4月には花が見られると思います。
「氷河期の森」の復元のいちばんの「こだわり」が湿地です。「少しずつ範囲を広げ、安定させて、植物を入れる」を繰り返し、時間をかけて育ててきた湿地では、人気の高いミズバショウ(サトイモ科)も見られます(fig.3)。ミズバショウと言えばあの白い仏炎苞(ぶつえんほう)が印象的ですね。
巻いている葉の横に小さく仏炎苞が確認できます。これからどう生長して、あの見知った姿になるのか、どきどきしませんか? あ、花(肉穂花序:にくすいかじょ)のほうが、どきどきしますか?
もちろん、花のあとには種ができるので、「氷河期の森」では新しい世代のミズバショウも育っています。
そのさまざまな過程を、この湿地で見ることができます。
「見る」というより「一緒に過ごす」と表現するほうが、この森には合っているようにも思います。今年は「氷河期の森」の植物たちと一緒に過ごしてみてはいかがですか。
地底の森ミュージアム 長田麻里